JICAシニア海外ボランティア活動報告
2. 学生プロジェクトの大きな成果
特記事項(活動計画表からの変更点等)
活動計画表からの変更点
- 最も大きく変更したのはロボットアームプロジェクトだった(装置はJICAの無償供与品)。
- 大学で行われるプロジェクトの程度は高いので企業が提供した職業訓練用の実習装置一式は使用になじまない。 高価な装置なので分解再構成して使用する事も出来ない。このままでは使用する意味があまりなかった。
- その後、他のプロジェクトと関連付けてさらに高度な利用法がDr.Iyadから提案された。 その良い例が画像処理技術を取り入れ工業用カメラで選別した物品をロボットアームで精密に移動や加工するプロジェクトだ。 現在このプロジェクトが進行しつつあり、ロボットアームに新しい役割が付与された。
学生プロジェクトの予想以上の成果
- 中東地域の工業技術発表会で最優秀賞を含む各種の賞を獲得した。
- 毎年活発に学生プロジェクト発表会が開かれ優れた成果を出している。
- 次に具体例を紹介します。
学生プロジェクトの大きな成果
11th Symposium of Innovated Arab Student (Tishreen Univ. Aug. 24-28, 2008)
- シリア、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプト、スーダンなどの国々から参加
- “Machine Vision System” by Ahmad Saqr supervised by Dr. Iyad Hatem:
1st Prize <<アハマッド君、最優秀賞>>
Ahmad Saqr君の発表 参加者の記念撮影
Al-Basal Fair for Invention and Innovation (Damascus July 15-22, 2009)
- 中東諸国の技術発表会
- “Robotic Arm for Transferring objects” by Abdullah Skaf and Zeina Ali supervised by Dr. Mustafa Dalileh:
The Best Young Inventor Prize <<アブドラ君とゼイーナさんのペアー、最優秀ヤング発明賞>>
Mr. & Miss ものづくり:真空吸着と電磁石を利用したロボットアーム、自動車の中古パーツを多用して製作
学生プロジェクト発表会
5年生ファイルプロジェクト計画発表会 (Oct. 31, 2007)
- これから1年かけて取り組むファイナルプロジェクトの計画を発表
- 学生は熱心に情報を集め計画を作った。程度も高いが物不足が問題だ。
5年生ファイナルプロジェクト中間発表会 (Feb. 14, 2008)
- 4ヵ月後、多くは3次元CADで設計、すでに製作しているグループもある。
5年生ファイナルプロジェクト発表会 (July 16-20, 2008)
- 実機完成、PLC, PICによるモータ制御応用、画像処理応用など多彩なテーマ
- 5年生人数:29名、卒業生:29名、就職:お国柄でほとんど公務員、資材:自動車用中古モータ等物不足
5年生ファイナルプロジェクト発表会 (July 16, 2009)
- PLC, PICによるモータ制御応用、画像処理応用など多彩なテーマ
- 資材:自動車用中古モータ、アルミ板、鉄材など、制御用PLC、PIC、各種IC、MOSFET、リレー等
4年生プロジェクト発表会 (May 27-28, 2008)
- PICを使った周辺装置のデジタルON/OFF制御が中心テーマ、8bit PICマスターした。
配属先の動向
メカトロニクス学科研究室の発展
- 発足当初 1 Lab & 1 PC実習兼講義室だったのが2009年には 2 Labs & 2 PC実習兼講義室に拡張発展しました。
- 2007.4.12 PC実習兼講義室1 2007.7.31 国枝シリア大使訪問
- 2009.1.19 Labを2分してPC導入 2009.3.5 PC実習兼講義室2
- 2009.4.14 Labを2分割後、藤木ボランティアコーディネータ訪問 2009.4.30 第2Lab, Damascus Univ.学生訪問
活動上の諸問題
要請文の情報不足
- 要請文の記述:「極めて初歩の実際的な物作り」をスタッフに指導することが主な業務内容となる。
- 技術分野の仕事への応募者には理論、技術、装置、CPU、コンピュータプログラミング言語などの特別な情報が必要である。 これらの項目は専門分化しているのでこれらの項目のどのような分野かの情報が示されないと応募者は可不可の適切な判断ができない。 私の赴任したティシュリーン大学メカトロニクス学科の水準は要請文から推測したレベルより高かった。 教員は外国で取得した博士号を持っていて高い専門知識を持っている。 加えて学生は現在医学系をのぞけば最優秀層である。若い学生は最新の技術知識をインターネットから簡単に手に入れる。 我々は学生と同じように自分の知識を更新できなければ学生に助言などできない。
資機材不足
- 我々がプロジェクトを遂行する際に機材不足に悩む。シリアでは経済制裁のため正規のルートでアメリカ製品を購入できない。 規制のない製品をインターネットを通して購入しようとしてもクレジットカードが普及していないため購入できない。 結局、機材を入手しようとすると現在のシリアで最も輸入の多い中国製にほとんど限定される。 日本製品は一般に高価なためあまり輸入されていない。日本の企業もシリアでは利益を得られないため進出しない。
- しかし、Mechatronicsに関係する電子・機械パーツ類を調べると、外国製品に比較してむしろ安価な日本特有の機材がいくつもある。 これは日本にはマイコンブームや人型ロボット製作ブームなどを支える広い層のアマチュア消費者がいるためだ。 高校生、高専生、大学生のマイコンカーラリー、ロボットコンテストなどは毎年開催され今や世界に広がっている。 ここでは安くて高性能のパーツ選びが重要だ。そのためのパーツが日本では通信販売を通して簡単に入手できる。 私はこの点に注目して私のプロジェクト遂行のためこのような安価で高性能なパーツの購入を携行機材としてJICAに依頼した。
問題点や困難を解決する秘訣・方法
- シリアのティシュリーン大学メカトロニクス学科への赴任は楽しく私の人生にとってとても有意義なものでした。 私の活動スタイルは万能型ではありません。私のモットーは集中せよ、そうしなければ良い結果は得られないです。 私は独自性のあるPIDコントローラの開発に3年間集中してきました。私は学生時代に電子工学を専攻しました。 実を言うと機械にはなじみがないのです。メカトロニクス必須装置であるモータの正確な制御は始めての経験でした。
- 私は長く研究環境で仕事をしてきたので正確な実験の遂行には自信があります。 延長を含めて3年間、そのような実験と背景となる理論の勉強に集中しました。 その結果私は良い結果を得ることが出来、学術論文レベルの6篇の報告書にまとめることができました。 これが私の最大の喜びです。
- シリア滞在は外国で働く最初の経験ではありません。私がアメリカで5年間研究を行ったときも大学で同じ様に働きました。 その時も私は良い結果を得ました。私は外国の大学で働くことが好きです、これは多分日本にいるときより外乱が殆どないからでしょう。
配属先へのスムーズな溶け込み方
- 会話
大学の教員はみんな英語を流暢に話すので最初から意思疎通ができた。 ラボ・アシスタント、事務員や清掃要員には英語が通じないことが多かった。 毎日アラビア語で挨拶することを欠かさないことが大切。 - 仕事上のミーティング
話す内容をあらかじめ考え原稿を準備しておく。 職場のスタッフとの話し合い、学科会議への参加、学部長会見、学長会見などの席で活動計画などを積極的に話し好意的に同意された。 - 仕事の専門性
職場の仕事に合う専門性を持つ。ボランティアの専門性が要請内容と一致しないことも多い。 要請内容を拡大解釈して自分の得意分野で良い仕事をする。 あるいは、さらに一般化して文化交流大使のように日本文化の紹介活動のために動き回るようなスタイルも有りか?
配属先でのコミュニケーションのとり方
- 配属先の上司・同僚・部下とのコミュニケーション言語
職場は大学だったので教員は英語を達者に使った。殆どの学生も英語が上手だった。コミュニケーションは英語で十分だった。 私の講義も英語で行った。 - 職場でのアラビア語の必要性
われわれの派遣全研修ではアラビア語はありませんでした。シリアに着後2週間現地研修でアラビア語を習いました。 とても身につくものではありません。若いJOCVは活動そのものに必要なこともあり結構アラビア語に上達します。 私の職場ではアラビア語の必要性はほとんどなかったので上達しませんでした。 - アラビア語が必要となる場面の例
長距離バスや汽車に乗るため切符を買うとき、タクシーを利用するとき、店で買い物をするとき、職場でも先生以外の人(ラボ・アシスタント、 事務員、清掃要員など)と挨拶を交わすとき、旅行先で道を聞くときなどです。
配属先のプロジェクトへの参画
- 学生の意欲と能力は高い水準にあるので大学のスタッフと協議した結果、 SVの持つ専門技術を生かして大学スタッフと協力し複数の実践的なプロジェクトを完成させることとした。
- 講義
赴任当初予定はなかったが学科会議で決定された。メカトロニクス学科の先生方がカリキュラムを作る。 私はその一部である4年生対象の講義を担当した。 - USB制御
現在最も重要なPCインタフェースの一つなので日本からICを持参した。数人の学生が強い興味を示したので彼らを含むプロジェクトにした。 - ロボットアーム
当初の要請に記載されていたので実施。ただし、3年以上未使用のため情報保持用電池切れですべての情報が失われているため、 複雑な再初期化作業を必要とする困難を抱えた。 - PID制御
現在あらゆる分野で制御技術が使われている。最も広く使われているのがPID制御である。 大学スタッフとも協議しデジタルPID制御プロジェクトを学科に提出した。 - 工場オートメーション
学科は4年経過しているのでこれまでいくつもの工場オートメーション関連プロジェクトを完成させている。 大学スタッフと学生が中心に進めているプロジェクトに前記1〜4プロジェクトの技術で参加する。
管轄省庁との交渉の方法
- 管轄省庁: 高等教育省
配属先名: ティシュリーン大学電気機械工学部メカトロニクス工学科 - 職務内容の決定
配属先は大学なので職務内容の決定は学科長、学部長、学長で行われる。 - 管轄省庁との交渉
スタッフの日本留学には高等教育省とSPC (State Planning Commission (of Syria))の許可が必要。 助手ソーマル君の日本留学で高等教育省の次官と面談(私は英語を使用、2006/11/16) 。 彼にとって大変有意義だった、私も予想以上の役割が出来たので満足感を覚えた。 助手ムハンマド君のJICA長期研修では時間が切迫したのでDr. Georgeが許可のため奔走した。 - 交渉の方法
大学のスタッフを通して交渉を申込む。カウンターパートの援助が不可欠。
企画・立案の配属先との交渉
- Working Plan, Project Planの提出(英文)
赴任初日の学部長会見で専門経験の概要を述べた。2006年11月1日WorkingPlanの概要をスタッフに提出、 その後スタッフからPID制御の共同作業の提案があった。カリキュラムを調査しより具体的な提案をした。 学長会見でもより高い工業技術レベルで機器制御を行うためこの計画を提案した。2007年1月11日、 デジタルPID制御プロジェクトをメカトロニクス学科代表スタッフに提出した。 第2号報告書に最後まで続く5項目の活動プロジェクトをまとめて報告した。 - 機材の申請に関して
カリキュラムに学生プロジェクトの時間があり学生がテーマを設定しプロジェクト活動を行う。 その際、普通学生個人でパーツを購入する。講義のプリントも原稿を学生に渡して学生個人の費用でコピーを取る。 授業料がない代わりに個人負担が当たり前と言う現状には驚いた。 大学にパーツ購入申請も可能だが許可や入荷までの時間が不明なので普通申請しないと言う。 ボランティアが機材購入を申し込んでも何段階もの許可過程でうやむやになることが多い。 計画書の必要な機材欄に記載した機材を個人かJICAの制度内で調達しないと現実にはプロジェクトを進めるのに困難を感じた。 - JICAと大学への資・機材の申請
小額機材: IC、プリント基板、ケーブル、小形モータ、工具、一軸ステージ、専門書など
高額機材: 工場オートメーションプロジェクトは多くのプロジェクトから構成され、毎年発展し続ける。 大学はEthernet付PCと机を提供した。JICAはネットワークPLCと工業用CCDカメラシステムを提供し支援した。
- 大学提供:部屋のパーティショニング、PC10台と20台分のPC机 JICA提供: ネットワーク機能付きPLC
配属先への事業報告書の提出
- JICAに提出する時期に合わせ、第1号報告書から第5号報告書まで英文で作成しJICAと配属先に提出した。
- 配慮点
教員は英語が達者だが、多くは旧ソ連かドイツに留学して博士号を取得した。彼らにとってロシア語やドイツ語が第1外国語である。 分かりやすいように写真や図を多用した英文の報告書を作成した。- The First Report of Senior Volunteer (Submit date: January 18, 2007)
- The Second Report of Senior Volunteer (Submit date: April 19, 2007)
- The Third Report of Senior Volunteer (Submit date: October 19, 2007)
- The Forth Report of Senior Volunteer (Submit date: April 16, 2008)
- The Fifth Report of Senior Volunteer (Submit date: September 16, 2009)